Galaxie 500
・・・Luna & Demon&Naomi

The Wondrous World of /Damon & Naomi(1995:Sub Pop)

Produced, arrange, and engineered by Kramer at Noise New Jersey Summer 1995

Naomi : Bass, Vocals
Damon Krukowski : Guitar, Drums, Vocals

Kramer : Electric Guitar, Mellotron, Emulator, Clarinet, Tapes, Bass, Backing Vocals

 デーモン&ナオミのセカンドアルバムは、サブ・ポップからのリリース。
 当時、宣伝されてた記憶なし。レコード屋で棚をあさっててぽっこり発見、狂喜した。

 ファーストからレーベルがかわり、サブ・ポップからの発売。
 すでにクレイマーのトラブルメイカーっぷりも伝わり、「デーモン&ナオミもシミーから移籍か・・・」とがっくりきた。
 でも、なぜかプロデュースはクレイマーだ。

 クレイマーの好き放題にやられた前作とは異なり、若干彼らの個性が出てきている。
 アコギをメインに使ったサイケな色合いはデーモン&ナオミの希望だろう。
 95年といえばクレイマーが失速し始めた時期。
 だから3人の個性がちょうどいいバランスでかみ合ったのかもしれない。

 ただし、このアルバムで特筆すべきはアレンジ面。
 おしみなくアイディアを振り撒いた、クレイマーの才能が見事に炸裂している。

 さまざまな楽器をアクセントに使い、楽器が絶妙に絡み合う。
 アコギをアレンジの基本線としてアルバムの統一感を保ちつつ、個々の楽曲で独立性をしっかり持たせる。
 この多彩な演奏やミックスは文句なし。聞き込むたびに、新たな魅力を発見できる一枚です。

<各曲紹介>

1)In The Morning


 フォーク・ロック調の軽快なアレンジで幕を開ける。
 歌うはデーモンとナオミに・・・クレイマーもいるみたい。
 妙に不安定なハモり方で、一つのメロディを淡々となぞっていく。

 バックではえらくメロディアスなベースが踊る。
 これ、ナオミの演奏だろうか。すごくセンスがいい。やっぱりクレイマーかなぁ。

 コロコロ弾むマリンバの演奏も聞き逃せない。
 エンディング間近で賑やかに盛り上がる。
 病んだ爽快感・・・そんな矛盾した雰囲気が溢れる。

2)The New Historicism


 ワンパターンとつっこまれないのかな・・・。
 彼らの曲は、ひたすらギターが執拗にコード・ストロークで自己主張する。
 もっともこの曲でのデーモンは不安定な歌いっぷりではあるものの、地に足がしっかりついている。
 
 さまざまな音が一つにぐしゃっとまとめられた、クレイマー印のミックスは健在。
 とびきり個性的なカラオケに負けず、デーモンはしっかり前を向き歌ってみせた。

3)Tour Of The World

 擬似ライブ仕立てのミックス。
 アコギとベースのみのシンプルなアレンジで、ナオミが静かにメロディをなぞっていく。

 中盤ではエレキギターがちょびっと顔を出す。さらにボーカルがエコー処理され、いくつかのパーカッションが効果的に曲を盛り立てた。

4) Forgot To Get High

 軽やかなアコギ二本とタンバリン。
 あっさりとした伴奏で、淡々と高音部を使って歌っていく。
 ときおり挿入される、男性のアナウンスはなんて言ってるんだろう。

 ほんのり緊張感が漂う歌だ。
 エンディングでかもめたちが泣き叫ぶ。
 ひょっとしたら歌詞のリンクしてるのかもしれないな。

5) Pyewacket

 ナオミの声は線が細くで気づきにくいが、実に暖かい旋律を持った曲だ。
 バックのアレンジもさまざまな楽器をしつこく重ねて、分厚い音を作り上げている。
 さりげないつくりだけど、飛び切りいかしたポップスが出来上がった。

 ボリュームを思い切り上げて聴くほど、良さをしみじみ感じる。
 クレイマーの音作りのセンスが見事に結実した。

6) Life Will Pass You By

 作曲はC.L.Darrow。カレイドスコープというバンドの曲なのかな?
 詳細不明です。お詳しい方にご教示いただけると幸いです。

 ロールを繰り返すスネアに、刻むようなバイオリンのフィルが常に鳴りつづける。
 みっちりと音は積み重ねられ、隙がない。
 音像からこじんまりしたサーカスの風景を連想する。
 ミドルテンポで弾んで展開しつつも、どこかサイケに病んだ空気が漂う。
 地面から浮び上がって歩いてるみたい。およそ4センチくらい。

7) Who Am I

 アコギとデーモンの歌。それだけの単純な構成に見せかけて・・・裏で静かにトランペット(?)と笛が鳴る。
 耳触りはあくまで静か。さらっと流して聴いてしまう。
 細かく聴くと、ホーンや笛が歌と微妙に絡み合ってるアレンジ。
 小品ながら、あんがい奥が深い。

8) New York City

 小鳥のSEにアコギがかぶさり、ナオミがささやく。
 停滞する空気が漂うあたり、ギャラクシーっぽい。
 ただしこの曲は爽やかさを表現しようとしているけれど。

 でも、その爽やかさがなんともぎこちない。
 書き割りの清涼感みたいなのは、何でだろう。
 後半に割り込むエレキギターのストロークを、ぼくは深読みしてしまう。
 「ええい、もう爽やか路線はやってられるかーい!」って、やけくそになってる気がしてさ・・・。

 キーボードのちゃかぽこをさりげなく織り込んでみたり。
 クレイマーのアレンジは、とっても手が込んでいる。

9) Pandora's Box

 アコギを引き連れて、ナオミが喉を震わせる。
 あまりに平板な歌唱だった前作より多少進歩してるとはいえ、まだどこか浮世離な空虚さを感じる歌だ。

 クレイマーはへたにナオミに感情を盛り込まさせず、メロトロンでバックトラックに色気をつけ、歌の透明感を強調した。
 あまり目立たないミックスながら、細かい音使いでオブリを効かせるベースも聴きどころ。

10) How Long

 かぼそくデーモンが歌い上げた。バックトラックはアコギとベースが折り重なって舞い上がる。
 楽器の「響き」を、心地よく感じられる一曲。

 シンセ(?)がうねうねとドローン的にまといつく。
 デーモンはバックトラックを振り払わない。
 エンディングが近づくに従い、さまざまな楽器が重ねられる。
 広がりのあるキュートなアレンジだ。

11) Whispering Pines

 この曲はザ・バンドのカバー。当時シングルカットされてもいないのに。手の込んだカバーだ。ぼくはオリジナルを未聴なので、どうクレイマーが料理したのか分かりませんが・・・。

 アレンジはサイケ風だが洗練されている。泥臭さなし。
 ナオミが輪唱並にリバーブを効かせた歌を聴かせる。
 
 ぽろんと鳴るピアノ、遠慮深げにソロを取るメロトロン(?)。
 さまざまな楽器が渾然一体となって、奥行きが見えにくい音像を作り上げている。
 コーラスにはクレイマーも参加してるかな。ヘロった声がいとおしいです。

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