Galaxie 500
・・・Luna & Demon&Naomi

More Sad Hits/Damon & Naomi (1992/Shimmy Disc)

All Instruments And Vocals By Damon,Naomi,Kramer
Produced,Arrenged, And Engineered By Kramer

 デーモン&ナオミのファースト・フルアルバムは、古巣のシミーからリリースされた。
 プロデュースはもちろん、レーベル・オーナーのクレイマー。
 クレイマーのセンスが、冴え渡った好アルバムになっている。

 バンドとして個性を構築しきれていないデーモン&ナオミを、完全に素材として使い、さながらクレイマーのソロみたいな雰囲気が漂う。
 
 クレイマーはデーモンとナオミそれぞれを、ボーカリストとして扱った。
 あるときはソロあるときはデュオ。
 さまざまな観点から二人の魅力を曲に叩き込んでいる。

 ところがサウンドの統一感にクレイマーがこだわるあまり、デーモンもナオミもバック・トラックに取り込まれたかな。
 デーモン&ナオミである必然性があまりない。
 そういう意味では、オーバー・プロデュースなのかなぁ。
 クレイマーの才能があってこそ、成立したアルバムといえる。
  
 ともあれ、さわやかで混沌としたサイケ・ポップスの傑作だ。
 彫像みたいなポートレートを使った、ジャケット写真もかっこいい。

<各曲紹介>

1)E.T.A.


 涼しげなギター・ストロークで始まる、とびきりのサイケ・ポップス。
 ダブルトラックのナオミの歌声はギャラクシー時代の不安定さを残しつつも、一本筋が通った意志を感じる。

 もっともこれはデーモン&ナオミの手柄じゃなく、まちがいなくクレイマーのプロデュースのおかげだろう。
 デーモンのハーモニーも、素晴らしくいかしてる。

 いい意味でも悪い意味でも、彼らを「素材」にしたクレイマーのポップ・センスが炸裂した名曲。
 全ての要素が昇華して、飛び切りの一体感を産み出した。

2)Little Red Record Co

 こんどはデーモンのボーカル。
 切々とメロディに声を置いていく。演奏は格別うまいとは思わない。
 でもアレンジとミックスの見事さで、音のひとつひとつに必然性がある。
 
 フォーク風サウンドが基調になりつつ、中盤でふにゃふにゃ踊るシンセ(?)のセンスが抜群。
 リバーブがかかった音像もすてき。
 波が寄せてくるような、エンディングの多重コーラスも効果的だ。

3)Information Age

 おつぎはデーモン&ナオミのデュオと来た。
 このアルバムではボーカルがやたらと重ならないように、曲順にも気を配っている。
 この当時のクレイマーは本当にすごい。 

 二人のハモりは特に和音を響かせるでもなく、ユニゾンで淡々といく。
 バックでもわもわ感を強調するシンセと、左右で不安定にオブリをかますギター。
 デーモン&ナオミには本当に申し訳ないが、やっぱりクレイマー特製のオケ
に耳が行ってしまう。

4)Laika

 ナオミのボーカル。不安定ながらも、すっと背筋が一本通った歌声は爽快だ。
 あいまいにモヤけるバックトラックと、姿勢はいいが頼りない歌声の対比がおもしろい。

 メインの演奏は、執拗にコードをかき鳴らすアコギだけど。
 こっそり隠れた、ベースが実にすばらしい。
 同じリズムで弦をはじきつつ、絶妙のメロディを奏でている。

 このベースは間違いなくクレイマーだろう。
 そして、とつとつとしたベースがナオミかな。
 アレンジの巧みさが光る一曲。

5)This Car Climbed Mt.Washington

 歌うはデーモン。なんだかドラマティックな歌だ。
 音像に負けず、説得力あるボーカルを聞かせる。
 なぜか深夜のうらぶれたビル街を連想してしまった。

 バックトラックは、もちろん最高。
 コード・ストロークだけでぐいぐい演奏にのめりこませる、凄みのあるアレンジだ。
 ドラムがリバーブたっぷりに響き、ギターが数本その上でむせび泣く。
 タンバリンがめちゃくちゃ効果的なアレンジになっている。
 
 クレイマー風のウオール・オブ・サウンドだろうか。
 馬鹿でかい音で、なんどもなんども聴きたくなる。

6)Memories
 
 ヒュー・ホッパー作曲のこの歌を、ナオミが無表情に歌う。
 この盤でのナオミの歌は、正直ヘタだとおもう。
 テクニック以前に、あまりに無頓着に歌うから。

 だけど、そこはクレイマー。
 見事にさみしさを強調して、曲世界でナオミの歌に居場所を作る。

 延々と鳴り響くクレイマーのオルガンもいかしてる。
 左右のトラックを奔放に泳ぎながら、不穏さを煽り立ててみせた。

7)Astrafiammante

 今度のボーカルもナオミ。ふわふわと地に足のつかない雰囲気をかもしだす。
 ドラムの音色はゲートが効いてるのかな?逆回転風でエコーが中途半端だ。

 エコーの奥に埋もれて聞こえづらいけど。
 ベースやキーボードが色々小技を効かせ、面白いフレーズを演奏している。

 エンディングではオペラ風の会話を、えんえんと被せる。
 もしかしたら、歌詞に関係したアレンジなんだろうか。
 いまひとつ、意味が不明なミックスだ。

8)Boaton's Daily Temperayure

 デーモンがリード・ボーカルを取る。
 ふっくらしたアレンジで、しっとりと曲が流れていく。

 静かにブカブカとオーボエが鳴り、サックスが高らかに鳴る。
 アレンジの構造そのものはシンプルなのに、おかずをこまごまと重ねた芸がうまい。
 曲自身はちょっと単調かなぁ。

9) (scene change)

 フェイド・インで入ってくるインスト。
 ギター数本とシンセを重ねただけのアレンジなのに、非常にニュアンスたっぷりに聴こえる。
 クレイマーの作り上げた音像がとてもいとおしい。
 一分半で終わる、タイトルどおり場面転換にふさわしい曲だ。

10)Sir Thomas and Sir Robert

 歌うはデーモン。
 ボーカルとユニゾン風に進み、さりげなくカウンターを当てるベースが素晴らしい。クレイマーの演奏かな?

 ダブル・トラックの歌声は不安定ながら、音像にはぴったり合っている。
 ちなみに。メロディをスラーで歌い上げる瞬間が、なめらかさで妙にうまいぞ。

11)Once More

 サイレンのように、エレキギターが執拗に鳴りつづける。
 そのエレキギターのフレーズを中央に置き、周辺から演奏で包み込んだ。
 ギターもドラムも淡々とリズムを刻み、絡み合っていく。 

 この曲でもベースは縁の下の力持ち。
 ボーカルだけでなく、リズムとも一体化を基調として、ポイントで絶妙のオブリを入れて見せた。

 肝心のメロディはいまいち。この曲の一要素として埋没してしまった。
 でも、この音像そのものは素晴らしい。さすがクレイマーだ。 

12)This Changing World

 作曲はJ.C.Oliver。詳細不明な人です。ご存知の方、ご教示いただけると幸いです。

 アルバム最後の曲はドラムがジャジーに鳴るイントロでスタートし、がらりと雰囲気を変えてきた。
 一転してストリングスとオルガン。
 フランス語の舌足らずなナオミの歌声が挿入され、バックでたどたどしくデーモンがサポートする。

 夢見ごこちのポップスをここで持ってくるとは。
 でも、どこかぎこちない。二人の歌声が頼りないせいか。

 クレイマーはバックトラックのテープ回転を変調させ、不安定さに拍車をかける。
 こういうとこ、情け容赦ないな・・・。
 エンディングはスクラッチ・ノイズ。
 アナログLPをかけっぱなしにした時のような、いたずらを仕掛けている。
 本盤が発売された92年は、LPがほとんどなくなっていた。少なくとも日本では。
 CD派の人へノスタルジーで入れたのか、それともアナログ盤で聴く人の為に、ギャグとしていれたのか。はたしてどっちだろう。

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