今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

Pallaschtom/RUINS(2000:摩崖仏)

 ついに出た。ルインズは吉田達也(ds)と佐々木恒(b)の二人だけによる、怒涛のリズムが魅力のバンドだ。あえてジャンルわけするなら、プログレかな。
 かっちりと構成された楽曲を、ベースのフレーズとドラムのリズムだけで表現する。
 確かにとっつきは悪いかもしれないけど、よおく聞くと、激しいリズムの裏にポップなメロディや刺激的なアイディアが満載なのがわかると思う。
 ここ数年で、僕がすごく注目しているミュージシャンのひとりだ。

 CDの帯には「7枚目のフルアルバム」と書いてあるけど、違うんじゃないかな。
 ルインズは85年の結成以来、数々の音源をリリースしてきたけど、僕が持ってるだけで、単独名義でこのアルバムが10枚目。その他にコラボレーションで4枚。ルインズの「GRAVIYAUNOSCH」やルインズ波止場は持ってないし、まだまだ音源はある。
 なにはともあれ、98年の傑作アルバム「ヴレスト」につづく、ルインズ名義ではひさびさのアルバムだ。正式発売は8月の予定。前作と同様、フランスのsonoreレコードで世界発売もされるらしい。僕は先日のライブでやってた物販で、超先行購入できた。うれしいな。

 今回のアルバムは、とことんルインズの家内制手工業作品だ。
 収録曲は全てルインズのオリジナル。録音は摩崖仏スタジオ(吉田達也の自宅アパート)、録音とミックスにプロデュースは吉田達也で、マスタリングは佐々木。CDのアートワークはもちろん吉田達也。そして演奏は、言うまでもなくルインズの二人だけ。
 なにからなにまでルインズがかかわり、逆に外部の血は一滴も入っていない純粋培養作品だ。

 まず特筆したいのが、音のよさ。いわゆる宅録なのに、くっきり粒が分離したクリアな録音になっている。初期のルインズの録音は、こもって潰れまくった音圧で押しまくっていたから、隔世の感がある。
 僕自身は細かいフレーズの流れを楽しみたいから、音がクリアになってくれたのは大歓迎。
 それにしても、つくづく佐々木の位置付けがルインズの中で重要性を締めていると思う。曲の主導権を持っているのは吉田のドラムだけど、ベースが縦横無尽に動きまくる。ユニゾンで畳み掛けたり、カウンターメロディでからんできたり。
 細かく聞けば聞くほど、気を配って作曲しているのがわかる。

 今回の収録曲は全19曲(うち3曲は、日本版だけのボーナス・トラック)と、大盤振る舞いしてくれた。ちなみに去年発売のこれに収録されていた、ルインズ名義の四曲中、三曲がクリアな音で再収録されている。
 僕が大好きな「Schvostess」が入っていてうれしい。細かいシンバルワークまでくっきり聞こえるから、わくわくものだった。

 ちなみにボーナスの3曲は、ルインズお得意のメドレーソング。クラシック編とハードロック編とプログレ編。どれも2分くらいのあいだに20曲以上をつなげている。
 過去にここでもプログレ編が収録されてたけど、音がもこもこでいまいち何の曲だかわからなかった。
 先日のライブでもメドレーはやってたけど、その時は音がでかくて割れまくりでよくわかんなかった。
 一度じっくり聞いてみたいと思ってただけに、今回の収録はうれしい。

 初期に比べてルインズの曲の構成は複雑になってきている。フレーズはますます細かくなり、リズムも多彩になっている。
 だけど、頭でっかちな音楽でなく、聞いていて楽しめるとてもポップな側面(少なくとも僕にとって)は依然として持っている。
 佐々木というとびきりのパートナーを迎えて、ルインズはますます音楽的に進歩している。その現時点での集大成がこのアルバムといえる。
 彼らのめまぐるしく変化するリズムに乗って、自分の脳みそがダンスし始める快感が味わえる傑作だ。

The Skiffle Sessions/Van Morrison,Lonnie Donegan,Chris Barber(2000:paintblack/Virgin)

 スキッフルとは。ものの本によると50年代中ごろくらいにイギリスではやった音楽で、アメリカのフォークに影響を受けた音楽らしい。
 このアルバムを聞くと、トラッド風味もあってイギリス人が自分のルーツも消化した上で演奏してるなって感じもするけども。
 当時の代表的なスキッフルのヒット曲は、56年にロニー・ドネガンが放った「ロック・アラウンド・ライン」だそう。スキッフル・ブームでイギリスにライブハウス風の場所が山ほど出来たとか。
 そういえば、ビートルズもスキッフルバンド出身だって聞いた記憶あるなあ。

 このアルバムは、ヴァン・モリスンがロニー・ドネガンらを招いて98年の11月20〜21にわたって、ベルファストで行われたライブを収録したもの。2曲でドクター・ジョンがゲスト参加している。
 ステージをやった日からかなり時間がたってるし、なんでこの時期にリリースされたのか、今ひとつわからない。
 演奏はほのぼのしたフォーク風の音楽がひたすら並ぶ。僕はスキッフルは詳しくないから、個々の曲にはコメントできないけど。
 もしかしたら、かなり有名な曲をやってるのかもしれない。
 作曲クレジットには「トラッディッショナル」のタイトルがずらっと並んでる。
 ちなみに最後の「I Wanna Go Home」は、ビーチ・ボーイズで有名な「スループ・ジョン・B」だ。最初なかなか気づかなくて、「どっかで聞いたことある曲だなあ」って首をひねってしまったっけ。 
 
 もともと3人ともベテランミュージシャンだし、こういう演奏は自分の引出しのひとつをあけて見せる感覚で演奏できるはず。ステージの雰囲気は、観客らも巻き込んでくつろげたショーだったんじゃないかな。
 でも、単なる同窓会では終わってないと思う。全般を流れる雰囲気はリラックスしている。だけど弛緩はしていない。
 スリルがあるとはいえない。これまでの音楽を進歩させる新しさなんてないけども。単なるノスタルジーではない、自らが演奏している音楽へのプライドが聞こえる。
 スキッフルは時代に置き忘れられた流行廃りの音楽ではなく、普遍的な価値があるんだ、って自信と意気込みが伝わってきた。

 とはいえ、別に堅苦しい音楽なんかじゃない。夜にビール片手でくつろぎながら聞いて楽しめる演奏だ。
 

室蘭・アサイ・センチメンタル/明田川荘之トリオ(1997:aketa/PLATZ)

 94年1月31日にアケタの店で行われたトリオのライブ演奏を収録したもの。2曲の明田川による自作に挟まって、スタンダードを2曲演奏している。
 ここでの演奏は、オーソドックスなジャズの雰囲気がいっぱい。弾むリズムが聞いていてすがすがしい。
 もちろん、明田川らの演奏だから、日本的要素やフリージャズの要素もありはするけども。落ち着いたピアノ・トリオ演奏を楽しめる一枚だ。
 どの曲も10分以上の長尺曲。
 ソロ回しもゆったりとしていて、個々人のフレーズをじっくり楽しめる。
 とはいえ、bもdrも控えめにして、縁の下の力持ち状態。
 明田川を立てる形で静かなものだ。
 ころころと弾むピアノに、小鳥みたいにさえずるオカリナも、明田川のプレイは両方とも健在。
 タイトル曲(4)の「室蘭・アサイ・センチメンタル」で奏でられるグルーヴが気持ちいい。しっかりしたリズムセクションに乗っかって、明田川が縦横無尽にソロ回しをする。
 明田川はソロ演奏でこそ魅力を表す人だと思ってたが、こういう素晴らしい演奏を聞くと考えを改めなきゃいけないかな。

WHITE TRAILS/Chris Rainbow(1979:EMI/Century)

 最近、EMレコードからクリス・レインボーの音源を集めたコンピが二枚リイシューされている。EMレコードの仕事の仕方は好きだ。解説は丁寧、音源はけちらずどっちゃりと。あとはマスタリングにもうちょい気をつかってくれれば完璧じゃないかな。
 こじんまりしたレーベルらしく、リリースのタイトル数が少ないのが残念。
 
 で、EMレコードの広告を見てて「クリス・レインボーって、確か持ってたよなあ」ってCD棚をひっくりかえして引っ張り出してきた。93年に日本でセンチュリーから再発されたうちの一枚。ボーナス・トラックとかはなしに、シンプルに再発された。当時も再発されたからと言って、特に話題になった記憶はないなあ。
 このアルバムはクリス・レインボーにとって、79年リリースの3枚目のソロアルバムだ。
 ひさびさに聞いたけど、やっぱりかっこいいから紹介する次第。EMレコードの再発も買おうかな。
 
 クリス・レインボーはイギリス生まれ。音楽的経歴はライナーによるとプログレ畑みたい。イエス解散後のジョン・アンダーソンのサポートや、キャメルなどに参加していたそう。
 アラン・パーソンズ・プロジェクトにも参加してるから、僕はかなり前からクリスのヴォーカルに接してたことになる。
 アラン・パーソンズ・プロジェクトのアルバム、84年の「アンモニア・アベニュー」。
 名曲「ドント・アンサー・ミー」がこの盤に収録されてるせいで、かなり僕はなんども繰り返しこのアルバムを聞いてたから。88年くらいかな。
 「アンモニア〜」を引っ張り出してみたら、クリスはリードヴォーカルを一曲取っていた。他の曲のコーラスにも参加してると思うけど、アナログ・プレイヤーが壊れてるから確かめられない(^^;)

 クリスの魅力はもちろんヴォーカル。ビーチ・ボーイズに傾倒し、山下達郎のように自分で多重録音したハーモニーがトレードマーク(というほど売れてなかったようだけど)。
 曲調は楽しいポップ・ソング。英国風にひねくれた感触はそれほどない。
 だけど、どこか陰がある。ぶわわって脳天気にはじけない。
 それがビーチ・ボーイズ(初期のね)を筆頭としたアメリカン・ポップスと圧倒的に違うところ。とはいえ気楽に聞けるポップスの一種なのは間違いないけどね。

 このアルバムは全曲クリスの作曲だけど、きれいなメロディぞろい。タイトなリズムにのって、多重録音コーラス特有のふくよかさにあふれたコーラスが跳ね回る。
 正直、ヴォーカルはうまいとは思えない。ソロ・ヴォーカリストとして食っていけるだけどの声の魅力に欠けている。
 だけどテクニックがしっかりしてるからハーモニーをさせると個性が際立ってくる。

 アルバムが始まって(1)のハーモニーを聞いた瞬間に、クリスの音楽世界にもって行かれる。しかし、多重録音のハーモニーの質感が達郎そっくりだ。不思議だなあ。
 僕のベストトラックは(4)。メロディもアレンジも演奏も、どれもこれも素晴らしい。そしてもちろん、クリスの歌声もね。弾むリズムに暖かい多重コーラス。クリスの魅力が凝縮された一曲だ。

 アレンジはかなり、ビーチ・ボーイズの影響が見え隠れする。だから目新しさや強烈な独創性を期待して、このアルバムを聞いたらがっかりすると思う。みもふたもないが「ビーチ・ボーイズ・フォロワーの一人」として聞いたら、とんでもない名盤だと思うけど。
 もっともクリスの名誉のために弁護すると、このアルバムに「パクリ」みたいなのはまったくない。もっとも(4)のコーラスは「ブレイクアウェイ」の影響が強烈だな。
 ちなみに僕はビーチ・ボーイズが好きだから、とても素直にこのアルバムを聞けた。
 クリスのハーモニーに対する愛情がびんびん伝わってくる、丁寧なつくりの音楽だ。

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