今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

旅/明田川庄之(1996:aketa/PLATZ)

 堂々4枚組の大作。もともとはこのCDがリリースされた頃に実施した、アフリカへの演奏旅行以前の録音集をテーマに、このCDをまとめる予定だったそう。ところが帰国後にやったライブの出来がよかったの、頻繁に共演していた板谷博(tb)の急逝があったために、アルバムコンセプトを急遽変更したとのこと。
 ちなみに、明田川はここでも板谷に捧げる曲を演奏している。

 収録曲はすべてライブ演奏。明田川はライブ演奏にとことんこだわっている気がしてならない。自分のライブハウス「アケタの店」を持っているから、わざわざスタジオに入る必然性がないのはわかる。だけど「アケタの店」で客を入れないで演奏したっていいわけだ。
 渋谷毅のアルバム「渋やん」はここで紹介したとおり、「アケタの店」での収録だが、「開店前の客を入れない状態」というスタジオ的な使い方で録音してたし。

 明田川がライブ演奏にこだわるのは、明田川本人が観客との目に見えないやりとりで生まれる即興演奏のマジックを感じているのか。
 しかし彼のライブを見てても、MCでは決して観客とのやりとりを楽しんでいるようには見えづらい。ぼそぼそ声でしゃべるから、CDで聞くと何を言っているのかさっぱりわからないし。照れてるのかなあ。
 そのかわり、その場の雰囲気でころころかわる柔軟性にあふれた音楽が、ライブではたっぷり楽しめるけども。

 このアルバムの利きどころは、明田川の演奏をさまざまなメンバー・セットで楽しめるところだ。明田川の演奏の魅力は、ロマンチックなフレーズを中心に、シンプルなジャズからフリージャズまで奔放に振れる、スタイルの幅広さだ。
 そのスタイルが共演者の演奏で、いかに変化していくかがこのCDセットのポイントと思う。

 1枚目は‘96/10/5「アケタの店」でのソロピアノ(一部オカリナ)ライブ。
 しょっぱなからオカリナの切ない演奏から始まる。オカリナの音色が、口笛のように微妙に響く。柔らかく響く明田川のピアノは、アクセントやタイミングが微妙に振れる。
 演奏者は自分ひとりだから、リズムもタイミングもすべて自由自在。もっともシンプルでおちついた明田川の演奏が楽しめる。
 このCDの最後は「オカリナ・メドレー」と題して、12分近くにもわたったオカリナのソロが楽しめる。
 音程により複数のオカリナを持ち替えながら吹いていくのだが、鳥がさえずっているような素朴さがいい。オカリナを持ちかえてピアノに置くときに、どうしてもコトッってノイズ音をマイクが拾うのはご愛嬌。

 中盤になると、実にぶっきらぼうにパーカッションを振り回す音が聞こえる。
 鉄製のベルをいくつかくくりつけたような、野性的なパーカッションだけど、暖かく、力強くひびく。
 無造作に鳴らしている様を想像すると、何となくほほえましい。
 これ、ライブを見るとわかるのだが、ジャラジャラとパーカッションをならしたあと、あっさりと足元にほおりだしてるんだよね。そのてらいの無さがかっこいい。
 そしてパーカッションが床に落ちたグシャ、って音すらひとつの音楽の要素になっている。

 2枚目は‘96年5/5・8/18、9/7の「アケタの店」によるトリオ編成を集めたもの。ただし、9/7はベースとのデュオだ。
 スケールの大きいピアノに、やさしくベースがからんでいく。
 この盤では、いつもの日本的なフレーズは押さえがち。また、アメリカのジャズフレーズでもない。アフリカの雄大さを意識しているようだ。

 「ヘルニア・ブルース」では明田川の歌声も楽しめる。お遊び的なもんだが、そのお気楽さが聞いていて楽しい。
 チャーリー・パーカーの「ナウ・ザ・タイム」をオカリナで吹いているが、楽器の持つ音色の軽妙さが泥臭さをすっかり消し去って、鳥たちのさえずりを効いているようだ。
 最後の「南部牛追唄」では、冒頭こそオカリナが日本的な郷愁を誘うが、シンセに明田川の演奏が変わった途端、混沌さが顔を覗かせる。重たく引きずる弓引きベースに乗って進む演奏は、息苦しくなるほど濃密でいい。
 
 3枚目は2枚目にも一部収録されていた‘96/9/7の演奏をまとめたもの。bとpによる対話が収録されている。
 4曲収録されており、全て明田川の自作曲だ。
 この3枚目が、この4枚組のアルバムの中で一番オーソドックスなジャズを感じさせる。
 明田川の日本的なフレーズも押さえ気味。アクセントを聴かせて、無骨ともいえるほどの落ち着いたプレイが多い。
 明田川の演奏は、共演者が少なければ少ないほど魅力を発揮するようにも聞こえるが。僕の気のせいかな。
 
 共演者である吉野弘志のプレイが素晴らしい。ともすれば一人の世界に入って音楽を構築してしまいような明田川のプレイを邪魔するでもなく、かといって自己主張をしまくるのでもなく。
 静かに音を重ねて、下からベースでそっと音楽を支える。
 デュオということもあってか、ベースのソロシーンもたっぷりある。やさしくフレーズを奏でる瞬間がいくつもあり、音にぐいぐい引き込まれていく。
 4曲目の弓引きによるプレイも最高だ。 
 明田川だけじゃなく、ベースの吉野の魅力がぐいぐい伝わってくる一枚といえる。

 4枚目は「アケタ西荻センチメンタル・フィルハーモニー・オーケストラ」と名づけられた7人編成(数人ゲストが入る曲あり)のコンボジャズ。
 ちなみに西荻とは、「アケタの店」がある東京の地名のこと。
 このコンボのサブリーダーを板谷博(tb)がつとめている。
 演奏日は92/2/6と4/21の「アケタの店」でのライブへ、96/4/30に「MANDA-LA2」で行われたライブを足したもの。
 3曲収録されており、すべてが明田川の自作曲。そのうち2曲では20分以上にわたる熱演が聞ける。もう一曲は岩手民謡を挿入した18分程度の演奏。どれもこれも、時間をたっぷり取った演奏ばかりだ。

 とはいえコンボ・メンバーらのソロ回しが当然あるので、普段の明田川の演奏に比べるとソロの時間は短い。だから、明田川のピアノ・ソロがあっさり終わる気がしてもどかしくなったりするのが面白いところ。
 コンボの演奏は全体的に控えめ。暖かくも切ないトーンを前面に出して、スリルこそないが、聞き手をホッとさせるさりげない演奏をしている。
 そのせいか、コンボのメンバーが明田川のソロを支えるバッキングをしてる時には、明田川の演奏が包み込まれて浮き上がるような感触の瞬間がある。

 それにしても。4枚組を聞きとおしてみてつくづく感じる。
 少なくとも僕にとっての明田川は、ソロでピアノを弾いてこそ才能を開花できるミュージシャンに思えてならない。
 確かに共演者と演奏しても、刺激的な演奏は聞かせるだけの懐の深さは持っている。
 しかし、ソロでピアノを弾いている時のいきいきした旋律とどこか違う。
 ウナリ声を上げながら自由奔放にピアノと対話する明田川の生演奏を一度見るとわかると思う。
 だから明田川が一人きりで飾らずにピアノを弾く姿が聞ける深夜ライブ(アケタの店で、月に1回開催)の機会が貴重に感じられてならない。

 これまで僕は明田川は「暖かい音を奏でるミュージシャン」として捉えてきた。その判断はまちがってはいないだろう。
 ところが、ソロでピアノを弾く時の、バックの静寂。明田川がピアノの鍵盤から手を離した瞬間にステージを支配する沈黙の緊張感。
 そんな風にぴんと張り詰めた雰囲気があるからこそ、明田川の情緒あふれたロマンチックな演奏のすばらしさが引き立つのかもしれない。
 つくづく明田川の演奏の資質を考えてしまう、面白い4枚組だ。

Ecstasy/Lou Reed(2000:Reprise)

 前作"Set The Twilight Reeling"(1996)から4年ぶりのニューアルバム。ハル・ウィルナーをプロデューサーに迎えて全14曲、堂々77分以上にわたる新譜が登場した。
 今回の売りは、とにかくギターの録音!ルー自身もインタビューで自慢していたが、エフェクターを通さない素直な音からノイジーな音まで、幅広いギターの音色がこのアルバムにつまってる。
 その音たちを、どれもこれも迫力たっぷりに録音できたことが、このアルバムを素晴らしいものにしている。
 しかもギターのみずみずしさだけに耳を取られちゃいけない。ベースだって最高だ。このぶりぶりした低音は、聴いていてとても心地よい。どんどんボリュームを上げて聴きたくなる。
 
 今回のルーを支える演奏メンバーは、前作のリズム隊に加えてギターをマイク・ラスケがサポートしている。そのほか、曲によってホーンなどをダビング。ローリー・アンダーソン(ev)も2曲で参加した。
 曲はすべてニューヨークで録音されている。14曲の内2曲の著作権登録が96年になっているので、もしかしたら前作のアウトテイクなのかも。

 僕にとってのルー・リードは、ロック界のラッパー的な位置付けだ。歌詞は興味ないので、あくまで歌い方から。微妙に音程はあるものの、メロディはあんまり気にしない。低音の言葉で語るように歌いかけ、僕をぐさっと刺し貫く。
 その迫力が大好きで、今まであれこれ聞いてきた。

 ポップな「ミスティック・チャイルド」や「マッド」から、18分以上にもわたって歪んだギターのドローンにのって歌う「ライク・ア・プザム」まで、振り幅の広い楽曲がこれでもかって並び、ステレオの前でわくわくのしっぱなし。
 ベストソングは「ビッグ・スカイ」だ。ポップなメロディに乗って、ドラムもベースもギターも、うきうきと跳ね回る。ルーのヴォーカルも、ぶっきらぼうながら弾んだ声で歌う。微妙に音程が不安定なのはいつものこと。
 希望に満ちたパワーが歌から伝わってくる。
 黒地にルーの顔が浮かび上がる、しょぼいジャケットは僕の好みじゃないんだけども。今後も繰り返し聞く好盤が、また一枚増えたと思う。
 
SOWETO/DOLLAR BRAND(1978:GALLO/Bellaphon)

 この盤を入手したのは、もう10年位前。ふっと聴きたくなって、棚から引っ張り出してきた。
 アブドゥール・イブラヒムの別名を持つジャズピアニスト、ダラー・ブランド。
 アメリカを中心に活動していたが、70年代に十回以上、南アフリカでレコーディング・セッションを行っている。(89年1月号「レコードコレクターズ」誌に詳細記事あり)

 これらのセッションは名演ぞろいらしく、1989年にイギリスや日本で4枚のCDに詰め込まれて再発されたことがある。
 当時、僕はそのCDを聴きたくて探し回ったのに、結局日本盤すら入手できなくて、悔しい思いをした。
 今回紹介する盤は、1990年頃に探し回っている時に偶然中古で入手したもの。
 ただ、このCDの出版年がわからない。1978年にCDがあるわけないし。
 多分、89年〜90年くらいだと思うけど。

 この盤はドイツのバラフォンからのリイシュー。南アフリカのレコード会社「ガロ」のレーベルである、「ザ・サン」が原盤。
 ダラー・ブランドの南アフリカ・セッション音源は、当時に最低8枚はリリースされている模様だ。
 収録曲から判断して、このCDは78年当時に「ソウェト」のタイトルで日本でもリリースされた盤じゃないかな。

 収録されている三曲はすべてダラー・ブランドのペンによる。どれも10分を越える長尺曲だ。
 録音メンバーは二曲が7人構成、残り一曲が4人構成でレコーディングされている。
 ダラー以外のミュージシャンは、全員南アフリカのミュージシャンらしい。
 
 このアルバムに収録されている演奏は、どれもこれも暖かい。
 当時の録音のせいか、ちょっと音が痩せてるけど。
 ダラーはスケール大きく、エレピでフレーズを鳴らす。
 そこにちょっとピッチがずれたようなホーンが載る。
 淡々とドラムはリズムを刻み、ベースはパルスのなビートで絡みつく。
 アフリカ音楽の雄大さやいきいきしたリズム感覚が、見事にジャズと混ざりあっている。

 演奏スタイルは、アフリカ音楽を強烈に意識させはするものの、オーソドックスなジャズ。
 ダラー・ブランドは、むやみに自分の演奏を目立たせない。
 ホーンを手のひらで遊ばせているみたいに、やさしくリフを弾いている。
 演奏がルーズってわけじゃない。
 だけど、ほのぼのしたフレーズを聴いているとつい、にやけてしまいそうになる。
 
 ジャズを聞いたことがあって、アフリカ音楽を聴いたことが無い人。
 アフリカ音楽を聞いたことがあるけど、ジャズに親しんだことが無い人。
 それぞれの人に自信を持って、おすすめできる一枚だ。
 ここではアフリカ音楽とジャズが、力いっぱい抱き合っている。
 とてもふくよかなニュアンスで、とびきりの音楽を聞かせている。

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