今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

ON THE STREET CORNER 0/山下達郎(2000:MOON)

 山下達郎のライフワーク、一人アカペラの企画アルバム「ON THE STREET CORNER 3」が昨年発表された。あわせて何年ぶりかに過去の「1」や「2」もやっとこさ再発。その再発にちなんだ記念盤がこれだ。
 このアルバムは「1」〜「3」までの全てを購入した人のみが手に入る、無料CD。前フリは「オンストカラオケ集」というものだった。まったく商売がうまい(笑)。
 この欄で以前書いたとおり、僕は彼のハミングが大好きだ。
 だからとってもこのCDが届くのを楽しみにしてた。

 ちなみに、このCDはもう抽選は締め切ったらしい。あと何年かしたらコレクターアイテムになるだろうな。てなわけで、簡単に内容を紹介すると。
 収録曲はこのとおり。

1)YOU BELONG TO ME
2)BLUE VELVET
3)SO MUCH IN LOVE
4)CHAPEL OF DREAMS
5)STAND BY ME
6)ANGEL
7)AMAPOLA(1985/2/24 神奈川県民ホール)
8)I LOVE YOU(1985/2/24 神奈川県民ホール)
9)LOVE CAN GO THE DISTANCE(2000/1/30 高田馬場ESPホール)

 1曲目から8曲目までは、アカペラのカラオケ。「オンスト1」から「3」まで、それぞれまんべんなく二曲づつ。そして後半三3曲はライブ音源という構成だ。
 カラオケのほうは、とても楽しい。メインヴォーカルがのっていない、未完成の音源だからこそ、僕は環境音楽的に聞いてしまう。ぼんやり聞いていて癒される素晴らしい雰囲気だ。
 ちゃんと歌詞カードがついてるけども、いったいこれをバックに歌を歌って楽しいのかって疑問も湧いてくる。つくづく達郎の歌のうまさを、実感させるだけだろうになあ。 

 このアルバムを聞いていると、和音の美しさ、ハモりが産み出すふくよかさ、そんなものがしみじみ感じられてとてもいい。
 完全に「ウー、アー」って白玉だけで行く曲だけでなく、なるべくバラエティ豊かに、かつハーモニーの暖かさを味わえるように選曲したのが伝わってくる。
 個人的には、ハミングだけでよかったから、そこがちょっと残念。
 
 後半三曲は、ちょっととまどった。なんか変な感じだ。コンセプトがいまひとつわからなくて。
 いや、歌声はとてもいい。「カラオケだけじゃ飽きるだろう」ってなサービス精神で入れたんだろう。もっとも、僕みたいなファンはカラオケだけでもまったく飽きないし大満足だけど。
 違和感は「何でこの曲を選曲したんだろう」ってこと。
 
 「アマポーラ」も「アイ・ラブ・ユー」も歌声はとてもいい。
 だから収録してくれたのはうれしいけど、そのために「オンストのカラオケ集」ってコンセプトが崩れたんじゃないだろうか。
 しかもオンストは「洋楽カバーをアカペラで」がコンセプトだ。だから達郎オリジナルの「アイ・ラブ・ユー」を選曲しなくたって。ほかにいっぱい音源はあるんだろうしさ。

 最後の「LOVE CAN GO THE DISTANCE」はこじつけることができるけどね。
 この「オンスト3」の発表記念のインストア・ライブの音源だから。
 発表時にインストア・ライブは数回実施してる。音源はその時にいっぱいあるはずだし、せっかく達郎の歌入り音源をいれるなら、この時の音源で統一してほしかったな。
 インターネットでこの時のライブの感想をいくつも読めるけれど、とっても聞きたい音源がいくつもあるのに。

 さて。最後にひとつだけ。この「0」にはアナログ盤があるらしい。
 んでもって、CDとは収録曲が違うらしい。
 ・・・なんでそういうファン泣かせのことをするのさ(涙)

Frankly A Cappella/The Persuasions(2000:Earth Beat!/Rhino)

 「このアルバムには、人の声以外に楽器は使われておりません」
 このキャッチフレーズで、これまで何枚ものアカペラ・アルバムをリリースしてきたコーラスグループ、パースエイジョンズ。タワーを覗いてたら、偶然に新譜がみつかった。
 
 パースエイジョンズはなんといっても77年のアルバム「Chirpin`」に収録された「Looking for an eco」が大好き。スパイク・リー監督の「ドゥ・イット・アカペラ」ではじめて聞いたが、ベテランの貫禄とドゥ・ワップへの愛情が伝わってきて、とても暖かく感じたのを覚えている。

 今回はライノのディストリビュートによる、インディーズ・レーベルからのリリース。もっとも、僕は94年の「Right around the corner」をもってるが、こいつもマイナーから。昨今のブラック・ミュージックの趨勢にともない、ずっとインディを渡り歩いてるんじゃなかろうか。
 もう何年もヴォーカル・グループはまったく人気がなく、メジャーから契約を切られてるらしい。

 さて、今回のアルバム・コンセプトは「パースエイジョンズ・シングス・ザッパ」。もともとパースエイジョンズのデビューは、ザッパが当時所有していた個人レーベルのストレートだったからってこともあるだろう。
 安っぽいライブハウス風のイラストに、顔写真をいろいろごちゃっとコラージュした、猥雑なジャケットだ。
 ちなみに、上で言及したアルバム「Right around the corner」でもザッパの「Lucille has messed my mind up」をカバーしてる。6年間、一枚もアルバムを出さなかったって事はないだろうが、「フルアルバムでザッパのカバー」はそれなりに暖めていた企画なのかも。
 ・・・残念ながら売れる企画とは言いがたいが。

 選曲は、60年代から80年代まで、それなりにまんべんなく選曲している。 とはいえ、あの膨大なザッパの作品からの選曲だ。「どうしてあれがないんだ!」って不満は出ちゃうけども。
 もっとも僕が大好きな81年のアルバム「You are what you is」から3曲も選ばれてるのはとっても嬉しい。
 アルバムのしょっぱなからいきなり、68年の「Lumpy Gravy」からのタイトル曲。ザッパのオリジナルはインストだったが、しっかりそれをコーラスでカバーして、わくわくものだ。

 今回のパースエイジョンズのメンバー構成は、バリトン3人にベース1人。テナーが1人に、”とっても高い”テナーが1人いるけど、やっぱり低音が強調されたアレンジになってしまっている。
 だから、全体的にぶっとい音が前面に出る。おかげで「You are what you is」あたりを筆頭に、迫力ある声が楽しめる。しかし、この「You〜」。なんでメロディラインをオリジナルから変えちゃうのか。妙に暗い雰囲気になっちゃったのが残念。
 
 今回はゲスト・ミュージシャンも3人参加。もちろんザッパゆかりの人たちだ。ブルース・ファウラーに、ロバート”ボビー”・マーティン、マイク・ケニーリ。3人ともあまりゲストゲストしてはいない。彼らの歌声にささやかな色付けをする程度だ。
 オーラスの「Tears begin to fall」では3人がまとめて登場し、大団円を迎えるのがほほえましい。
 フロ&エディがばか騒ぎしたザッパのオリジナル録音の雰囲気を髣髴とさせる。

 しかし、ザッパ・トラストの権利管理の厳密さにはあきれる。パースエイジョンズらのおしゃべりのようなインタルードまで、キッチリ自分らのコントロール下に置くんだから。
 管理するのはけっこうだけど、その代償としてザッパの音源をつぎつぎ開放してほしいのにな。

 てなわけで。ザッパ・ファンにはとても楽しめる盤だ。アカペラが好きな人も聞いて面白いと思う。だけどこれらの共通点を持たない人が聞いたら、「なんかとっ散らかったアルバムだなあ」って感想を持つだけじゃないか。
 だからこのアルバムは流通経路を無視しても、大して売れないだろうな。
 またもやインディーズに深く深くもぐってしまうパースエイジョンズの未来が見えるようだ・・・とほほ・・・。

Egomaniacs/same(1993:simmy)

 キム・フェイヒー(g.vo)、ジャミー・ハーレイ(perc)とクレイマー(b.vo.key)が組んだ、エゴマニアックスのデビュー盤。そして今に至るまで唯一の盤。もともと瞬間的なユニットのつもりだったのか、それともクレイマーの関係するバンドの常として、喧嘩別れしたのかはよくわからない。
 
 全14曲、アレンジはちょっとそっけない。クレイマー印のちょっとモヤのかかった音像の中で、がしがしと荒っぽく演奏する曲が多い。似たようなアレンジが多いから、最初に聞いたときは似たり寄ったりの曲が続く、つまらない盤かと思ってしまった。
 ところがじっくり聞いてみると、とんでもない。わくわくする個性的なメロディにあふれてる。およそとっつきが悪いけど、聞き方のピントがあった瞬間、とたんに魅力的になるアルバム。

 作曲は、クレジットによれば全曲エゴマニアックス名義だ。「本当はほとんどの作曲はキムによる」てなクレジットもあるけど。ちなみに、シミーから出たマビュゼズの1stを宣伝までしてる。「わが道を行く」がふさわしいシミーにしては珍しい。なぜだろう。拠点をニューヨークからニュージャージーに写して、資金を集める必要でもあったのかな。

 ともあれ、トリオ編成とはいえ多重録音を駆使して、たっぷりとノイズや編集で汚しをかけたアレンジに、けっこううまいヴォーカルが乗っかった、とびきりのひねくれロックがてんこもり。いい曲が多いけど、ベストトラックは疾走感が最高な「your sister」かな。

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