今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

Time to come in/Milksop Holly(1999:shimmy/Knitmedia)

 マラ・フライリン(vo,g)とクレイマー(g,b,etc)のユニット・・・かな?
 このアルバムのほかに、もう一枚リリースされている模様。
 作曲はほぼすべてをマラが、プロデュースとアレンジ(録音もかな?)はクレイマーがやっている。
 盤の雰囲気的には、マラのソロ・アルバムを作るはずが、クレイマーが口をはさみすぎてユニット化した、という感じかな。
 シミーがニッティング・ファクトリーに吸収されて以来、あまりクレイマーの元気な姿が聞こえてこず残念だったのだが、こういういいアルバムでもって、活躍が伝わってくるのはなによりだ。
 
 基調はサイケ・フォーク。イギリスのトラッド風味もほんの少々感じられる。
 ちょっとくせがあるふくよかなメロディを、マラが低めのちょっと不安定な声で歌ううしろで、チェロかビオラがドローン的なオブリを入れていく。
 全体に落ち着いたイメージで、ギターはコードを穏やかに弾く。
 マラの歌声は、歌い上げる時の切なさがとてもいい。タイトル曲でのサビのメロディには、引き込まれてしまった。

 とにかくアレンジが素晴らしい。練りこまれて、丁寧なつくりなのがよくわかる。クレイマーは一発取りの躍動感を重視するあまり、録りっ放しでデモテープに毛が生えたようなアルバムも多々あるけれども、これは多重録音を見事にあやつり、音の一つ一つやその重なり具合を、奥行き深く楽しめる好アルバムに仕上げている。
 さすが、ユニット仕立てのクレジットにするだけはあるか。クレイマーの主張があちこちから聞こえてくる。

 アルバム全体の統一感も考慮しているので、ぼんやり聞き流せば長い一曲のようにCDを聞け、じっくり音に向かい合えば個々の曲の魅力に引き込まれる。
 夜の室内が似合う、閉鎖的な音ではあるけれども。こういうささやかなポップさは、僕はとても好きだ。

Merzbox Sampler/Merzbow(1997:Extreme)

 ノイズ・ミュージックの第一人者として、日本よりもむしろ海外での評価が高いメルツバウ。僕もここで紹介したことがある。
 メルツバウの正体は、秋田昌美のソロプロジェクトと言っていいだろう。
 このメルツバウが1999年に去年オーストラリアのレーベル、エクストリームから50枚組というとんでもない企画のCDをリリースした。
 名づけてMERZBOX。全世界で1000セット。全編すべてこれノイズ。値段は約500ドル(米ドル?)らしい。一体誰が買うんだろうとも思うが、目の前にあったら僕は間違いなく買っちゃうだろう。

 50枚組の中身は、約半分が1979年のデビュー以来の音源の再発で、残り半分が未発表曲というしろもの。しかも、メルツバウは過去に100枚近くのアルバムをリリースしてるから、このボックスセットを購入しただけでは、全貌どころか側面をちょろっとなでただけ、と言うのが凄い。

 で、このCDだけれども。その50枚組から10曲を抜き出したサンプル版だ。
 とはいえ、無造作に10曲並べただけでクレジットがろくにないので、いまいち素性がわからない。
 たまたまスタジオ・ボイス3月号でメルツバウの特集をやってたおかげで、ちょっとその片鱗が見えてきたから紹介する次第だ。
 
 選曲は80年から96年までの音を満遍なく選んでいる。
 それぞれ、どのアルバムからの曲だ・・・というのも調べたけども。
 煩雑になるので個々には触れない。もし興味がある方はメールください。いないだろうけども(^^;)
 
 順番に曲を聞いていくと、メルツバウの音作りの変遷がよくわかる。曲が進むにつれてかわっていくスタイルが、刺激的でぞくぞくする。50枚組のヴォリュームでは、このめくるめくカタルシスはないだろうな。
 初期の打楽器と電子音とテープ編集(かな?)で作っていた人間くさい音作りが、だんだん音像一面を埋め尽くすホワイトノイズに変わっていく。後半は温かみを鉄ブラシでこそげ落とし、混沌とした激しいハーシュ・ノイズだ。うっとりと耳を傾ける音楽ではないが、じっくり耳を傾けると、とてもおもしろい。

 メルツバウを一聴しただけでは、たんなるホワイトノイズの集合体にしか聞こえないだろう。僕はふと、ジェイムズ・ブラウンを聞いたときを思い出した。
 初めてJBを聞いたときは、どれもこれも同じ曲にしか聞こえなかったのに、いつのまにか曲の違いがわかって、ずぶずぶJBファンクにのめりこんだ愉しいひとときを。
 ダンス音楽のJBとメルツバウを同列に語るのはちょっと違和感があるけれど。メルツバウを聞くたびに、新しい発見がスピーカーから噴出してくる。 

 メルツバウを、僕はけっして人には薦めない。おそらく100人聞いて、99人は耳をふさぐだろう。だけども、もし耳を傾けてみるならば。こんなにアイディアに満ちた音楽はそうないよ。

Billy breathes/phish(1996:Erektra)

 フィッシュ7枚目のオリジナルアルバム。キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」を意識したかのようなインパクトのあるジャケットだ。
 彼らはライブバンドとしての評判が余りにも高く、本人らもライブ中心の活動スタンスを肯定してるようで、どうもスタジオ盤への風当たりが悪い。先日の最新アルバムも、6枚組のライブ盤(ここで紹介)だったし。
 現在の彼らのスタジオ最新作「ストーリー・オブ・ザ・ゴースト」(1998)は、ジャムセッションを編集したアルバムだ。きっちりと曲を作りこんだ(かどうか、本当のところは不明だけども)上でのスタジオ作品を、彼らはこのアルバム以降は発表していない。

 プロデューサーをつとめたのは、スティーヴ・リリーホワイト。僕自身はXTCの「ブラック・シー」やU2の初期作品でのイメージが強いが、このアルバムではそれほどドラムの音を作りこんでいない。
 総収録時間は50分足らずなのに、全13曲。ライブではノリ次第で一曲を延々と演奏しつづけ、時には数十分ものジャムを繰り広げるのが売りのバンドなのに。
 聞いていると「フィッシュの新曲カタログ」的な印象がある。「曲を覚えて、あとはライブでジャムを楽しんでくれ」と言いたいかのような感じだ。
 
 もっとも、アルバムの作りそのものは実に丁寧。
 ゲストミュージシャンを呼ばないかわりに、各曲を巧みにアレンジしていて、聞いていて飽きがこない。
 ライブでは聞けない、きれいなエコー処理も心地よい。
 演奏だってきっちりまとまっているし、冗長なところもない。
 前後に派手目の曲を置いて、静かな曲やジャムっぽい曲を混ぜてみたり。最後にぐぐっと盛り上げて冒頭の曲につながっていく、統一感あふれた構成(に聞こえた)にはしびれた。
 彼らの代表作とはちょっと言いづらいけども。フィッシュの魅力をきゅっと軽く絞った、いいアルバムだ。

Still alive in`95(live in Japan)/Kramer(1996:クリエイティブマン・ディスク)

 95年に二度目の来日を果たしたクレイマーが、恵比寿のライブハウス「ギルティ」で行った二日間のライブのうち、1995/9/28の演奏を収録したアルバムだ。
 僕も当時見に行った(僕が行ったのは、収録されていないほう)が、長丁場ながらとてもいいライブだった。

 このライブはもともと、デイヴィッド・アレン(ex:ゴング)とヒュー・ホッパー(ex:ソフト・マシーン)とクレイマーによるトリオ演奏が目玉だった。
 ところが、ビザの関係でアレンが来日不可となり、チケットの払い戻しまであった。僕がライブハウスで開演前にビールを飲みながら、何となく聞いていた観客同士のおしゃべりも、ホッパー目当ての客ばかりみたいで、がっかりした記憶がある。
 アレンのアクシデントに伴い、急遽ライブの構成は変更された。
 結果的にはシミー(当時クレイマーが主宰していた、インディーズ・レーベル)のお披露目公演な感じとなり、クレイマー目当ての僕は、狂喜してライブを聞いていた。

 結局、この日はオープニング・アクトにE-TRANCEが出た後、デーモン&ナオミにドッグボウル、そしてクレイマーを聞くことが出来て、最高の夜だった。
 このアルバムはそのクレイマーのソロライブのみが収録されていて、ちょっと残念。ドッグボウルのバックでクレイマーがベースを弾いていたんだけども、その演奏がとても素晴らしかったから。
 あ、そうそう。このライブ盤で、やたらにぎやかに叫んでいる女性観客はE-TRANCEのヴォーカルだ。でかい声でクレイマーをあおりまくってたのが、今でも印象に残っている。

 さて、このライブはクレイマー(vo.ac-g)をヒュー・ホッパー(b)、デーモン・クロブスキー(dr)、ドッグボウル(ac-g)、スティーブ・ワトソン(el-g)が支える。
 ワトソンはシミーのアルバムのエンジニアとして名前を知っていたが、ギターもうまいなあと聞いてたっけ。

 演奏はクレイマーのソロアルバム収録曲を中心に、カバーを何曲か。
 スタジオでこそ魅力を発揮する室内タイプのミュージシャンと思い込んでいただけに、甲高く声を張り上げて、喉を振り絞って歌うクレイマーには驚いた。
 歌も実にうまいもの。楽器はアコギをかき鳴らすだけで、神経はほぼすべて、歌に注力してるのではないか。
 ただ今にして思えば、エンターテイメントとしてのステージに、慣れてたとは言えないかなあ。

 カバーのロイ・オービスン「イン・ドリームス」が素晴らしい。オービスンのベルベット・ボイスにはかなわないまでも、滑らかな歌声も、軽くはずむ裏声も、どちらもきれいなもの。ちなみに、ほかのカバーは「ジェラス・ガイ」やミラクルズ「トラックス・オブ・マイ・ティアーズ」など。「ジェラス・ガイ」で笛を吹き鳴らすクレイマーは、この曲にあらたな魅力を付け加えている。
 
 もちろんクレイマー自身の曲もいい。スタジオでのギミックがなく、シンプルなバンドサウンドで聞くからこそ、どれもこれもしっかりしたメロディ持った曲だと実感できた。
 僕にとってこのアルバムは、あのとびきりの夜の一部を巧みに切り取った、最高の一枚だ。 

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