今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

On The Street Corner1/山下達郎(1980/2000:Moon)
On The Street Corner2/ 同上  (1986/2000:Moon)

 始まりは「Alone」だった。
 僕が高校の時、クラスメートのコーラス部の奴が、この曲をフルコピーした。それを聞いた瞬間、あまりのかっこよさに僕はアカペラとドゥ・ワップに夢中になった。
 あれは1987年のことだと思う。すぐにこのアルバムのテープを手に入れた。何度も聞くうちに、オリジナルのドゥ・ワップが聞きたくなり、レコード屋に行ってドゥ・ワップのコンピレーション・アルバムを一枚買ってきた。そこに収録されてたムーングロウズの「シークレット・ラブ」に夢中になったけど。
 達郎のドゥ・ワップとはちょっと違う。
 オリジナルのドゥ・ワップをいくら聞いても、違和感はずっとぬぐえなかった。

 先日この欄で達郎による同シリーズの「」を紹介したが、これまで廃盤だった「1」と「2」も、ついに再発された。しっかりボーナス・トラックとリマスターの付加価値つきがうれしい。
 このシリーズは、達郎自身が「ライフワーク」と言い切る、アメリカの黒人音楽を中心にポピュラー音楽を、すべて達郎の声によるアカペラでカバーしたアルバムだ。もともとはドゥ・ワップがメインの構想だったようだが、アルバムとしての完成度を想定して、対象曲のジャンルはどんどん広がっていく。
 一人アカペラによるアレンジは、当初はステージでの一演出だったらしい。だがいまでは、達郎のひとつの大きな個性として、地位が確立している。
 
 アメリカ黒人音楽は、ゴスペルを引き合いに出すまでもなくコーラスが重要な意味をしめている。ドゥ・ワップにしても、コーラス抜きにしては語れない。
 だけど達郎のドゥ・ワップは似て非なるもの。僕が違和感を感じたように。
 その違いは大きく分けて2つ。表現方法と縦の線。

 表現方法とは。一人コーラスのふくよかさだ。一人コーラスと、複数の人間によるコーラスによる聴感を聞き比べてみればわかる。一人コーラスのほうが、圧倒的にサウンドの一体感を感じる。まあ、全部自分の声でやってるんだから、音が溶け込むのは当然だけど。

 そしてもうひとつ。縦の線。これが根本的に達郎の個性になっている。
 縦の線をそろえるのは、あたりまえのことかもしれない。
 でも、これは達郎のバージョンとオリジナルを聞き比べてみればわかる。オリジナルは圧倒的に感触がゆるい。縦の線はばらばらだし、音程もちょっと不安定だ。だが、そのゆるさが、皮肉なことに暖かさにもなっている。

 ところが達郎のバージョンは機械的なまでに、くっきりと縦の線と音程がそろっている。同じパートを何度も歌ってかぶせてるはずだが、僕の耳程度では、まったく聞き分けられない。極端な話「山下達郎は和音の声を同時に出せる」と言われても信じてしまうかもしれないほど。
 しかし、その縦の線がぴったりとそろっているからこそ、複数コーラスとは別の意味での、一人コーラスでしか出せない暖かさが生まれる。
 ヘッドホンで聞くと、やわらかい布でそっと包まれてるかにも感じてくる。
 だからこそ、僕は達郎のアカペラは冬の寒い夜に似合うと思ってる。

 さて、最後に簡単にこのアルバムの内容を紹介します。
 まず「1」はほとんどがドゥ・ワップのカバーだ。僕が一番好きなのは、「Remember Me Baby」。こういう掛け合いでメロディがきれいな曲って、なかなかないみたい。ドゥ・ワップを好きになって、少しかじって聞いてみたんだけどね。

 アルバム全体をおおう感触は、ほんの少し孤独。
 後にメインになる”白玉でバックを覆い尽くす”アレンジでなく、ドゥ・ワップを尊重したアレンジがメインで、すっきりとしてるからかもしれない。これまで発表した3枚の中で、一番「間」が感じられるアルバム。
 ボーナス曲は「Gee」と「Close youe eyes」(all Tatsuro version)の2曲。「Gee」はこれまでライブでやった記録は見たことがあるので、ここに収録されたのは嬉しい限り。

 リマスターによる音の改善も素晴らしい。「Close your eyes」のラストで、ブレスが右チャンネルから左チャンネルに、すうっと流れるところ。すさまじい臨場感がある。

 つぎに「2」はより一般性を求めたアレンジになっている。まず買うなら、この一枚かな。選曲が多彩なこともさることながら、白玉をメインにして空間を埋め尽くすアレンジが完成したアルバムだと思う。
 ボーナス曲がこちらにも2曲。「Heavy Makes You Happy」と「Will You Love Me Tomorrow」だ。特に前者が僕はとても好きで、ここのところ何回も何回も聞いている。メタリックな打ち込みのパーカッションをバックに、空間を生かしたアレンジがとてもカッコいい。
 1986年の録音だそう。普通に考えれば「On The Street Corner2」のアウトテイクなんだけど、もしかしたら同年4月に発表された「ポケット・ミュージック」のアウトテイクかも。このアルバムは打ち込みにこだわったアルバムだし。ふとそんなことを考えた。
 オリジナルのステイプル・シンガーズも、達郎が参考にしたというボビー・ブルームも未聴。また探してみようっと。

 ちなみに、このシリーズを「1」〜「3」まですべて買ったリスナーには、全員プレゼントで「On The Street Corner 0」がプレゼントされる企画あり。
 僕は当然応募する。手元に届くのが3月末位らしい。
 内容はいまだ発表されてないけど、このシリーズのカラオケとか。
 まえに「3」の紹介の時に述べたとおり、僕は達郎のハミングが大好きだ。
 だから「0」の到着を、とっても楽しみにしてる。

joose/joose(1997:ELECTRA)

 ここのところ、毎日聞いているアルバム。購入したのは3年前。要するにほぼリアルタイムで手に入れた。
 彼らは4人組の男性黒人コーラス・グループ。滑らかなソウルを聞かせる。
 上の山下達郎の欄でも書いたとおり、僕はコーラスが大好きだ。93〜94年くらいは、大勢の黒人コーラスグループがシーンの全面に出てきたこともあり、リリースされたものを片っ端から買ってたと思う。

 最近はちょっと熱が冷めたんだけどね。なかなか新譜が目立つところにおいてなくて。今でもコーラスグループは健在だろうけどなあ。
 かれらのCDを買ったのも、多分”コーラスだ”程度の理由だと思う。持ってることをすっかり忘れてた。先日ひょっこり見つけて聞きなおして気に入り、僕の最近のヘビー・ローテーションになってる。不思議なことに。
 
 なぜ不思議かというと。この欄で紹介しようとじっくり聞いてみた。だけどメロディにそれほど個性はない。耳なじみのいいきれいなメロディだけど、独創性はあんまりない。アレンジだって、特徴は見つけにくい。正直なところ。
 僕が好きになったポイントは、コーラスの気持ちよさ。
 スムーズなテナーがリードを取るんだけど、ときどきバリトンの渋いしゃがれた声が割り込んでくる。 
 そのメンバーの声の対比が気に入って聞いていたみたいだ、どうやら。

 ちなみにバックのコーラスは、機械的なほどに一枚板のタイミングで、布のように破綻のなく聞かせる。
 この手の音楽を聞くたびに最近思う。レコーディング方法が発達して、修正が容易になったせいで、不安定な部分や間違った部分は簡単に修正できるらしい。だけども、あまりにも完璧を求めすぎるがゆえに、レコードが”一瞬のきらめきを切り取った記録”でなく、”単なるカタログ”になってやしないかと。

 確かに完璧なのはきれいで聞いていて楽しい。
 とはいえ、どこかで破綻したところ、いわば突出した個性。
 そんなところが聞けないなら意味がない。個性をきれいな砂糖菓子で塗りつぶしてるだけじゃないかな、とね。

 さて、このアルバムではリズムはほとんど打ち込み。メンバーのレオナルド・ペティが音楽の主導権を取ってるみたい。あとはハンザ・リー(僕には、詳細経歴不明)が、大分協力してるけど。
 なにはともあれ、「名盤」といわれるアルバムじゃないけども、ふとしたときに耳にして楽しむにはいい一枚です。

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